大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

いろんなためいき

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「聴こえてきたこと」(by いろんなためいき)

東京の愛すべき小さなお店たちはどうしているだろうと、春から幾つかの店のサイトを見ていた。中央線沿線には特に魅力的な個人店が多く、その個性豊かなお店たちは町の顔を作っている。

大学進学のため高崎から東京に出た私は、吸い寄せられるように中野・高円寺へ向かった。群馬に息苦しさを感じた私が東京で深く呼吸できたのは、マイナーな価値観が全て拾われたから。居心地を良くしてくれたのは、小さなたくさんのお店たちの存在が大きかったろう。抑圧されたマイナー思考は、東京では堂々と解き放つことができた。

自転車ですぐの場所に住んでいたので中野・高円寺へ足しげく通い、裏道を歩き尽くした。その後高円寺に引っ越し。小さな八百屋、個人店のコーヒー豆屋、喫茶店、狭い狭い居酒屋。すてきなお店がいっぱい。

思い出すだけでも、あの店が密を防ぐのは至難の業に違いないという店ばかり。たぶん大沼の人には想像できないくらいぎゅうぎゅう。例えば6畳とか4畳半の店に店主1人と客6人が身を寄せているというような居酒屋が軒を連ねて、一人暮らしの若者に居場所を与えてくれた。その後は少し大人の阿佐ヶ谷・西荻窪へ歩みを進めることになる。

私が調べたお店の多くは、2か月休業して6月中旬からそっと開店しているところが多いようだった。昨年1月に行った西荻ユハさんはコーヒー豆の通販を始め、FALLは6月から時間短縮での営業再開。高円寺えほんやるすばんばんするかいしゃ(以下るすばん)は休業して通販のみ。

写真展に合う音楽を探していたけど、昨年1月にるすばん店内でかかっていた音楽がすてきだったなと思いあたり、取り寄せた。CD「聴こえてきた音楽」

新店舗の為の買い付け旅行だったので、経済も荷物もギリギリすぎたその時は、迷った末長谷川集平さんの絵本だけ購入したが、いつかゆとりができたらと心に留めていた1枚。

思った通り、店内にぴったり。その静けさを引き立ててくれる音に耳を傾けていると、大切なことが色々浮かんできた。この音楽は、2016年にえほんやるすばんばんするかいしゃ(絵本専門の古本屋&ギャラリー。現在は出版も)で行われた近藤晃美さんの展示に際し作られたもの。(2人以上買いたいというお声がかかったら三月の羊でも販売しようと思います。ご希望があればお声がけください。試聴できます。)

るすばんオーナー荒木さんの目で磨かれた絵本たちは、単なる「古い本」ではなく愛情でぴかぴかに磨かれた「貴重で大切な本」たち。お店で買った幾つかの本は、今でも私のとっておき。今では自ら出版も手掛け、若い時から深い知識と審美眼のある彼の存在から、客としても同じ自営業者としても大きな励ましをもらっている。こういうお店があって嬉しいな、と思う。

どうか小さいお店たちが、この荒波の時代を潜り抜けて、続いてゆきますように。資本のしっかりした大手の店ばかりになったら、世の中はなんとつまらなくなるだろう。東京が面白いのは、都会だからとか便利だからではなく、多様性があるから。政治に投票して思うような結果が出なくても、お店に1票入れることは誰にでもできる。これもまた、文化を守り、町を作ること。