大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

音楽と港とDJ

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28日までの「音楽と港」展。後半知子さんが添えてくれた解説文をぜひ皆様にもお見せしたく、載せます。

私は写真への理解が浅いし、この繊細な作品を写真に収めることは至難の業なのでなかなかねこひ日記ではご紹介が難しいと感じていましたが、今日ひょんなことから語り口が見つかった気がしたので書いてみます。

今回の展示は全てモノクロのフィルム写真。テレビでも、今はないかもしれないけど、私が子供の頃は丁度メディアの過渡期で、画面がざらっとした画像のドラマと、妙にくっきりした画像のドラマがありました。

20代になってから姉にその話をして、ざらっとした画像のドラマの方が面白くて好きだったと話すと、それはアナログフィルムで撮ったものだよ、と教えてくれました。くっきりの方はデジタル。画面の質感の好みだけでなく、内容もたぶん80年代後半のデジタルより70年代後半っぽい方が魅力に感じました。

焼き付けされた写真の差は、質感の違いは分かるものの、ではフィルム写真とデジカメ写真は何がどう違うために魅力が分かれるのか語る能力はなく、そこで知子さんにぜひそこも含めた文章に仕上げて欲しいと無理を言って解説文の完成を遅らせてしまいました。

一番はフィルムは粒子(丸)でできているというのが違い(デジタルは四角)と思いますが、フィルム写真では撮る所までが表現の半分、そこからまだ現像の工程が長くあり、微細な調整や工夫を手を掛けて入れ込んでゆくことができるのですね。

書くのがすらすらできないと言っていた(だからこそ写真で語れる)知子さんの文章を心に引っ掛けて、今日ある映画を見た時に、その魅力のもう一つの大きな柱は、物質として(ネガやテープが)「ある」ことなのかな、とやっとわかった気がしました。

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函館をもっと好きになりたくて、私は時々函館蔦屋書店で函館が舞台のDVDコーナーへ立ち寄ります。佐藤泰志原作の映画シリーズは「海炭市叙景」を始め、名作で心に響くもののハードで時を選ぶので、今回はもう少し軽そうで、あれ?神木隆之介さんがこんな幼い!と目を引いた「Little DJ ~小さな恋の物語」(永田琴監督、2007年)を手にしたのでした。

舞台は1977年。ラジオ好きの野球少年太郎くん(神木隆之介)が入院した海の見える茅部の病院で、ひょんなことから昼の院内放送を担当することになり、入院患者さんたちと関りを深めながら、死について考え、爽やかな恋心を抱きながら懸命に生きる物語。

思ったほど軽くなかったけれど、温かい気持ちと穏やかな感動が残る映画で、随所に函館の街並みや海が出てきて、物語にドラマを与えていました。そんな中私の内で知子さんの文章とリンクしたのは次のような場面です。

入院に飽きた太郎くんが、ベッドで毎日お昼にだけお決まりのクラシックが聞こえてくるスピーカーにふと目を止める。じっと見て、そこからケーブルを辿ってゆくシーン。線は廊下を伝い、放送室にでも行くのかと思ったら病院の外へ。山の中木々の間を通って、一軒の家へ続きます。

鍵のかかっていない室内へ入ると、壁一面にレコードが並び、マイクやオープンリールデッキなどが揃った魅惑的な部屋が。そこは医院長先生の部屋で、思わずディスクジョッキーの真似をした太郎くんが院内放送を任されることになるのですが、私はそのケーブルを辿るシーンが強く印象に残りました。

電子化されてゆく時、私たちは構造が見えなくなります。けれどケーブルは辿ってゆける。辿って、12歳の少年は誰にも頼らずにそこへたどり着いたのです。

丁度その前日、DJ松永さん(クリーピーナッツ)がピアニストの清塚信也さんとの対談で、高2で初めてターンテーブルを買って「自分の好きな曲に直接物理的に触れる!」という感覚がすごく面白かったと話してるのを見たところ。(興味のある方はこちらから→ この話題は21分頃から

音に「触れる」っていう衝撃が、他全部なくていいやと思えるほどのめり込んだきっかけだったんだなとこれまたビビッときたのですが、これも繋がって。自分の手に負えない部分の多いデジタルの世界でなく、物が「ある」ということは、身体が操作を実感でき、微細な体験を全身で味わうことができるということなのですね。

太郎少年と同い年の息子1に、(デジタルの方が安くて簡単に手に入ったのですが、アナログがいいようだったのでそこを譲らず)アナログのターンテーブルを手渡せて良かったな、と改めて思いつつ、太郎くんのように顔つきが大人びてゆく日が間もないことを思いながら映画の余韻に浸りました。

こうして、やっと知子さんの言っていたフィルムやテープに元が「ある」という魅力の意味が腑に落ちたような気がしました。デジタルだって保存できるけど何が違うのかと問い詰めた日から1か月以上もかかってしまいました。店舗の営業日は残り4日。冬ごもりの前に、皆さんにお会いできますように。