大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

手作りの火~原始生活便り2


大沼から車で2時間くらいの場所にあるピリカ遺跡は、縄文時代より更に古い旧石器時代の遺跡。敷設されているピリカ旧石器文化館では、火起こし体験が予約なし無料で気軽にさせてもらえる。

ひとりで着火までいくのは高校生男子くらいからと聞いたけど、何でも試してみたい私たち。ブンブンゴマみたいな構造で、ただ棒を両手ですり合わせるよりは、反動の分力が少なくて済む道具と、軸がずれないように工夫されて一番下におがくずが仕込んである板を係の方が用意してくれた。

5分くらい経って、少し下のおがくずが茶色くなってくる。でも、5分以上単調な作業を続けるのってすごい根気がいる。

係員のお姉さんが慰めるように「午後になったら係の人が来るから、火を起こすところを見られるかも」と言ってくれたけど、顔色一つ変えず、淡々と作業を続ける息子1の様子と今までの経験から、彼なら最後までできるかもしれない、と思え、本人もそう思っているのが伝わってきた。

微妙な変化を、お姉さんと私で一生懸命伝える。「かすかに焦げ臭いにおいがしてきたよ」とか、「茶色が濃くなってきた感じ」とか。


ほとんどひと気のない静かな館内で、単調な作業を続けること8分くらい?うっすら煙が上がるのが見えてきた。ただ、ここからが長い。煙の様子が変わって来るのを少しでも見逃すまいと、私も夢中で変化を伝える。

気力勝負だとしたら、とにかくやっていることが1歩でも前進につながってるよ、と本人が実感できるようにすることが応援だと思うから。確実に効果が出てるよ、ゴールが見えて来たよ、作業も前よりスムーズになってるね。気づいたことを、嘘ではなく真実のささやかな変化を、見逃さずにきっちり伝える。


ただ、ここからが息子1の本領発揮。長距離走に強いタイプ。コツを掴んだのか、上下する手は前よりリズミカルになり、煙の頻度が増え、明らかに焦げ臭い匂いが強まってきた。

大量の石器が発掘された丘の麓、静寂に包まれてたった3人で厳かな儀式を見守っていると、外が何もなくなって、今がどこだかよくわからなくなるような不思議な感覚に襲われた。

「おがくずが光った!着火したかも」係員さんが穴の部分の焦げを棒でほじくり、赤いものをポロっと取り出してくれた。


すかさず燃え上がりやすいものに移す。
ぼわっと炎が上がり、歓声が上がった。


一瞬のことだったので、カメラは大きな炎を捉えてないけれど、作業開始から20分。火を見つめた3人に、何とも言えない感動があった。お姉さんも私も涙ぐんでいた。

火を起こすのって、こんなにすごいことなんだ。薪ストーブの点火の時、下準備が悪くてマッチを何本も無駄にしてしまうことがある自分が恥ずかしくなった。他の動物たちが自分では作り出すことのできなかった火を手にした人間。ものすごい魔法だなぁ!と改めて感じ入る。

壮大な魔術を見せてもらっただけでなく、13歳になった彼が、自分で火を起こすまでに成長したこともまた、とても嬉しかった。