大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

写真には写らない・言葉にもならない


この写真を撮った頃(9月のお彼岸)、書くはずの言葉。
植田真さん原画展、無事終了しました。って。
なのに、ずっと書けませんでした。

「家に帰るまでが遠足」っていう言葉があるけれど、私にとっては、原画を無事次の会場へお届けし、植田さんにお返しするものをお返しし清算し、植田さんを知りたくて読んでいたシャーロック・ホームズ(小学生の頃からの愛読書)をひとまず4冊読み終え、同じ理由でゆっくり読んでいた『誰も死なない』(トーン・テレヘン作、長山さき訳、金子國義絵、メディアファクトリー)を閉じ、次の原画展のお約束が出来て、ようやく言える気持ちになりました。

みなさん、原画展無事終了しました!ありがとうございました♡


以前、著作のご紹介や数ある作品を読んでの植田さんの魅力について、総括はまた!って書いたことも、ちゃんと覚えていますよ。だけど、言葉にすることはできませんでした。工藤さんの時も同じようなことを書いたけど、言葉にしようとすると、逃げて行ってしまいそうだから。

それでも勇気を出して少しだけ。
植田さんの魅力、まずは何と言っても類まれなる色彩センス
繊細なカラーのハーモニーが、ほんとうに美しいです。

植田さんが愛読していたトーン・テレヘンさんの著作に絵をつけた『リスのたんじょうび』では、目を引く優しいレモン色の表紙から入って、ワントーンのセピアカラーが続き、海の中の場面だけ少し変化するというおしゃれな作りになっています。


『リスのたんじょうび』(トーン・テレヘン著、野坂悦子訳、植田真画)

『えのないえほん』の挿絵では、ため息の出るようなたおやかな美しさ。こちらは繊細すぎて私のカメラにはその良さが写りません。


『えのないえほん』(斉藤倫作、植田真画、講談社

それから質感。『りすとかえるのあめのたび』もそうですが、色だけでなく、紙の質感にもとても気を遣っていらっしゃいます。色の効果、めくる効果と共に、本という物質への愛情が細部にまで行き届いているのを感じます。これらは出版社とのコミュニケーション能力が必要だと思います。

それからイデア。限られた条件の中で、どうしたらより良い表現ができるかを常に考えていらっしゃるのではないでしょうか。植田さんの絵は、絵それ自体はとても穏やかで心地よいものが多いですが、私はパンクな部分を感じます。静かに常識を超えてゆく気配。挑戦も、きっと本への愛情から生まれる勇気なのでしょう。

それからとにかく謙虚さと丁寧さ、誠実さ
お預かりした雑貨にも、隅々にまでそれらが表われていました。植田さんのグラスやカレンダーはまだ少しだけお取り扱いがあります。プレゼントにもお勧めです。

そしてそして、たぶんこの部分が私の心を捉えて離さないのだと思うのですが、潔さ。
優しいだけの、色合いが優れているだけの絵は沢山ありますが、甘くなりすぎないのは、植田さんの表現の侍のような潔さの為ではないでしょうか。

水彩画というのは一発勝負です。後戻りはできず、常に真剣勝負。楽しんで描いていらっしゃるものもあるけれど、静けさのある水彩画に満ちた気迫。これが優しさと何とも言えないバランスで、とにかくかっこ良い!!!

深い考察がそこにはありつつ、表現はすっきりと行間を残す。たくさんの習作や、想像の膨大な量を饒舌なままにせず、静けさを漂わせ、言葉少なに語る。これは工藤さんの絵にも共通することですが、私の憧れのスタイルです。

今回の原画展を生でご覧になった方は、絵本の原画でありながら、ほぼ読者が印刷物で見る通りの画面であることに驚かれたかもしれませんね。加工や修正を加えず、植田さんがイメージしたものがダイレクトに読者に届くよう最大限の努力をされていることが感じられます。

そして、みなさんへ。
2024年夏『おやすみのあお』原画展を開催予定です!



『おやすみのあお』(植田真作、佼成出版社


2014年に出版された絵本ですが、植田さんの詩もすばらしく、コンセプトを越えた絵のパッションと広がりが心をひた打つ一冊。絵本の中でも特に好きな名作です。水墨画のような青の世界を、ねこひなりの切り口でお届けできたらと思います。

見返しも最初と最後で違い、意味が込められています。でも、写真にはやっぱり写らない。(特に右)この色ではないんだけど。ぜひ店頭でご覧ください。

では、長くなりましたが、初めての植田真さん原画展、終わりました。
ご協力いただいた皆様、応援してくださった皆さんに心から感謝致します。
生きている手ごたえを感じられる夏でした。