根室出身の翻訳家、柳瀬尚紀さんをご存知ですか?
夏にお亡くなりになった記事で「根室出身」と知って、『フィネガンズ・ウェイク』
(ジェイムズ・ジョイス)を訳したすごい人という雲の上の存在から、もっと身近に
感じさせていただき、この秋は改めて柳瀬さんの本を読んでみました。
昔挫折した『日本語は天才である』(柳瀬尚紀著、新潮社)を読み、最初の所はとっても
面白かったのだけど、やはり途中で挫折して、次に子どもたちとの課外授業をまとめた
『日本語ほど面白いものはない 邑智小学校六年一組特別授業』(同上)を読みました。
子どもたちと接する機会があまりないという柳瀬さんと、「辺境の地」島根の子どもたち
との心温まるやりとりがとても楽しく、私も6年生に交じって授業に参加させてもらった
気分になりました。
話は前後しますが、学生時代の友達が演劇をやっていて、見に行った舞台で、ある時彼が
『フィネガンズ・ウェイク』を朗読していたのがきっかけでジョイスを知りました。
意味はわからないけどとっても聞いていて面白い本だなぁ、と。
その後、結婚してからアイルランド好きの夫とアイルランドに行く際、
私にはあまりきっかけがつかめない「アイルランド」という国に親近感を感じるために
その本を買いました。表紙に「ケルズの書」の柄が使われてとてもおしゃれな文庫本でした。
さて、その後あまり開くことのなかったこの本。長男が赤ちゃんの時、夫が読む本に困って
朗読してみると、ウケました。それから、もう少し大きくなって3−4歳の時に再び
ふたりで面白い場面だけ拾い読みして、ウケていました。
それで、うちの文庫本には付箋がべたべた貼ってあります。息子が喜びそうな箇所を
夫がマークしていたそのままになっているのです。
きっとこの時から、息子は柳瀬さんの言葉の洗礼を受けていたのでしょう。
話は今年に戻ります。6年生と一緒に授業を受けた私は、2005年から柳瀬さんの訳で
新訳シリーズが出たロアルド・ダールコレクションを改めて読んでみたくなりました。
早速函館図書館へ行くと、一番読みたかった『チョコレート工場の秘密』(ダールさんの中で
旧訳を読んだことがある本だったので、新しい訳の印象を味わえるかと思って)はなかったので、
ある中からなんとなく選んだ『おばけ桃が行く』をまずは家に連れて帰りました。
これが面白くて面白くて、つい子どもたちの寝る前のお話しの時間でも内容をかいつまんで
話したのです。
すると、続きを待ちきれなくなった息子1が、2日目にはもうひとりで読んでいました。
ロアルド・ダールコレクションは読みやすい作りになっているので、一般的には
小学校高学年向けの位置づけですが、ものによってはもう少し小さい子でもいけるのですね!
ダールさんの作るストーリーの力強い魅力と、柳瀬さんの訳の魅力を目の当たりにした出来事でした。
先を越されて、私は「絶対に最後を言わないでね」と息子1に念を押しながら続きを読み進め
ました。息子2には夜のお話しで続きを話して聞かせました。
そしてすっかり子どもたちが夢中になったので、続けて
『アッホ夫婦』『ぼくがつくった魔法のくすり』を借りました。
これまた大ヒットで、特に小2の息子1には『ぼくがつくった魔法のくすり』が読み頃のようでした。
ダールさんの本には、ひどくておぞましい大人が描かれ、容赦なくぺしゃんこにされてゆきます。
それは大人が読むとちょっとぞっとするような世界だったりしますが、子どもたちにはたまらない魅力なのです。
柳瀬さんの訳は独創的なところがあり、個性的なその訳を嫌う人もいるようですが、
言葉を心から楽しんで、物語の「生き」を殺すことなくとっても新鮮なお話をそのまま子どもたちに
差し出してくれているように思います。
子どもから大人まで楽しめるロアルド・ダールコレクションは、「いいお話」が嫌いな小学生高学年
くらいの男の子に特におススメです。
軽妙に話が進むので、本が苦手と思っている子どもたちにもきっと入りやすいでしょう。
英語の早期教育が取り入れられようとしている昨今。
今こそ立ち止まって、まず日本語の魅力に存分に触れたいなぁと思います。