大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

ガンバの冒険再び

      
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2020年の干支ということで、昨年末テレビで映画「GAMBA ガンバと仲間たち」が流れた。なぜか半年たった今、息子2がまた観てた。年末には原作への思い入れと行き先の不安から少しいじの悪い気持ちで見ていた私だけど、その時も今も、エンディングの倍賞千恵子さんの歌う「ぼくらが旅に出る理由」は心に沁みた。オザケンの元歌もいいけど、倍賞さんのはほろりとくる。


これまた干支に掛けて、今池袋マルイ7Fでアニメ「ガンバの冒険45周年展」をやっているらしい。オザケンがヘビロテだった学生時代気が遠くなるほどウロウロしたあの西池袋で。→ 詳細
行くことはできないけど、私だけじゃなくてあのアニメを何十年も心に住まわせてる人がほかにもいるんだ!という心強さが嬉しい。

原作のボリュームがあまりに厚みがあるためか、映画もアニメもそれぞれの切り口で作り手の何か熱いものが加わり、原作から飛び出た別の作品という体がある。映画「GAMBA」は大切な個所が略されていたことや、全体が妙にアメリカンテイストだったり、唯一の女性である潮路の描かれ方にディズニー的ステレオタイプが見られる為あまり入り込めなかったけど、アニメはジャスト子供時代に見て夢中になり、いまだにカラオケで主題歌を歌ってしまうくらい好き。子供たちともう一度一緒に見たけど、製作者の大人たちの気持ちがぐっと伝わってくるエネルギッシュな作品だった。

それは時代の熱量みたいなもので、今あんな熱い血はそうそうお目にかかれない。でっかいことをやってやるんだ!とか、正しいものは正しいんだ!とか、まっすぐな人助けとか。どちらかというと、旅に誘う気持ちを沸かせるものだったように思う。

原作『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』は、そういうテレビ的な「盛り」はなく、どちらかというと旅には億劫な気持ちの主人公が登場し、巻き込まれるようにして旅に出ることになる。様々な心の葛藤が丁寧に描かれ、割り切れない気持ちや味方同士の分裂などが詳細に書き込まれる。そのリアルさが、心に水が染み渡ってゆくようにじわじわ沁みてくるのだと思う。

アニメが12色マーカー(けなしてるわけではなく、敢えて子供たちに分かりやすくシンプルでビビッドにしているという意味で)とすると、原作の『冒険者たち』は120色色鉛筆のように繊細で、控えめだからこそずしんと腹の底に響いてくる悲しさと強い祈りのような気持ちが感じられる。3部作いずれも、過酷な現実を生き抜く底力をつけてくれること請け合いだ。

映画に省略して欲しくなかったひとつの重要な場面は、オオミズナギドリたちが原作ではオスしか残されていないというところ。語ることもできないような惨事が、そこにあった(はず)。無言から伝わってくるものに圧倒されそうになる。けれど、映画では卵を取られるという分かりやすい設定でお世話役のおばちゃんみたいなオオミズナギドリがガンバたちを助けてくれる。

それから死というものも、原作では大切に扱われながら「子供用」だからと言って和らげることなくシビアに描かれている。考え抜かれ、起こるべくして迎える死の場面の幾つかは映画では省略されていた。映画だからとか子供向けだからという理由で、そこを削ってしまうのは少し残念だ。

斎藤さんのインタビューなどを全て読んだわけではないけれど、そこには幼いながらも第二次世界大戦を体験した経験が少なからず盛り込まれているように思う。

人間が人間同士、たくさんの命を奪い合った。たくさんの略奪をした。コロナより多くの命が奪われた。沖縄地上戦慰霊の日を迎え、慰霊碑にしがみつくおばあの姿に胸をぎゅっとさせながら、もう一度、次はひとりで『冒険者たち』を読んでみたいと思った。

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