高校の化学の先生が、1年の授業の一番最後に「Powers of Ten」という映像を見せてくれた。化学の授業はさっぱり覚えていないけれど、この映像だけは記憶に残って、時々無性に見たくなる。居ながらにして宇宙からミクロまで遥かな旅ができるのでおすすめ。(古く有名な映像なのでご存じの方は多いと思いますが)
先週の新聞で福岡伸一さんがコラム「動的平衡」でウィルスという存在について書いていた。私の前にもましてぼんやりした頭では、その内容の半分もわからなかったけど、ひとつ目玉となった発見はウィルスとは生物の原初から存在していたものではなく、進化の結果、高等生物の登場後に現れた「高等生物の一部」だということ(高等生物の遺伝子の一部が外部へ飛び出したのだそうだ)。
ただの「敵」ではない、という生物学的認識に基づいた見方を教えていただくことで、何かが腑に落ちる。年々色々な現象が加速して起きる中、私たちは揺れながら様々な「現象」を受け止めていくしかない。それをどれだけ多様な視点で見られるかということで、不安はある程度消せると思う。
そしてもうひとつの発見は、福岡さん訳の『ドリトル先生航海記』(新潮文庫)が出ていたこと!昨年末に息子と井伏鱒二さん訳の同書(岩波書店)を読んで、胸のすくような感動を得た一方で、こんな面白い本が埋もれてしまうのは惜しい、井伏さんの訳は丁寧ですばらしいのだろうけれど、今の子供たちには少し回りくどい日本語だなぁと感じていたので(プーさんもしかり)。息子2は古めかしい日本語にウケてげらげら笑いながら口真似していたけれど。(今年2月に角川からも新訳が出ていた)
イギリスの灰色の空の下、向学心があるにも関わらず、靴屋の息子として学校に通うことも許されなかったスタヴィンズ少年が、博物学者であり医者であるドリトル先生と大冒険するお話。冒険に出るまでの助走が長く、6歳の息子がよく飽きずに聞いているなぁと思うほど静かに展開してゆく前半だが、隅々まで味わい深いよくできた物語で、最後は度肝を抜く方法で見事なエンディング。
生物が好きな人だけでなく、考古学や物理学などが好きな人もきっとおぉ!と思う「航海記」。もちろんそういうのが苦手な人にもただ面白い。ドリトル先生のはっちゃけた性格に息子2は爆笑してたし。
私がこの本を何より好きなのは、物語でありながら、しっかり整合性が取れていて気持ちがいいこと。ドリトル先生が犬と話せることを裁判官にどうやって証明したか、そこには日本の多くの児童文学内でのファンタジーの甘さにはない、論理的な展開がある。葉っぱのお金で動物が何かを買うような物語には決してない、子供にきちんと向き合ってくれる誠実さのようなもの。
シリーズ3作目を読める日を心から楽しみにしている。