そのままの自分で、みんながそれぞれいいんだって、国語の教科書の詩とかで知識として教えてもらっても、なぜるのは上っ面というか、体の上層部。HIP HOPは、ぐっと根っこを見せて体現してくれる。自分全肯定の世界。
14歳の、全然褒められたことのない(本人談)少年が、これだけは褒められたと伸ばしていった力。「14歳のままの俺でどこまで行けるのか試してみたかった」とライブの締めにRさん(creepy nuts)が話していた。
不良でもなく、勉強も運動も苦手な小柄な少年。高校生で頭角を現し、少年漫画の主人公よろしく、MCバトルでいかにも強そうなこわもての人たちを相手に、圧倒的な技術力で勝ち上がってゆく。
「わるそーなやつ」が多く活躍してきたHIP HOP界で「そのまま」を貫くのはどんなに勇気がいったことだろう。あ、怖そうじゃないやつがいる、と共鳴したふたりの道のりはデコボコだらけだったと思うけど、きっと14歳で確信した「それ」を手放さず、ただただ楽しさを味わいながら苦しさを乗り越えたと思う。
1年前、音楽活動に専念する為とラジオやメディアから退いて1年。全部注ぎ込んだ結果が見事に実り、ほんとうにすばらしい。これで一生大好きな音楽で食べて行ける、そんなシンプルな喜びを一生感じられるふたりだから成し遂げられたのだろう。
注ぎ込んだもの全部が表れている松永さんのスクラッチは、前にも増して雄弁で胸を打つ。
日本語ラップで世界を席捲するという快挙。
努力している人が評価され、幸せになっていく姿って、なんて勇気を与えてくれるんだろう。家族が増え、プライベートの充実ぶりがそのまま大きな自信となってパワーアップしたRさんの広い愛と、余計なものをそぎ落としてひたすら技術を高めてきた松永さんのスクラッチが美しい。
■THE FIRST TAKE(Youtubeチャンネル)
*「Bring-Bang-Bang-Born」creepy nuts
そのままの自分で、常識を静かに覆してきたRさんと、主人公マッシュが重なるアニメ「マッシュル」主題歌。松永さんのちょっと抜けた感じの有機音と、切れのあるサウンドの対比が面白く、今までのHIP HOPにないほのぼのした部分もある独特な持ち味は、世界に出しても唯一無二だと証明された。
一方こっちはいわゆる「王道」HIPHOP。工業地帯川崎生まれの少年たちが、魅せてくれる。
*「Champion」BAD HOP
「川崎で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ」という有名なバースを含む「Kasaki Drift」にて、10年の活動を終える今は、「川崎で有名になりたきゃBADHOP俺らみたいにやりな」と後に続く者たちに優しいまなざしを送る。潔く、心打つ。
写真はたわわに実ったうちの庭の夏のホップ