大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

人参ジュースと生きるためのふりかけ


冬場は嫌になっちゃうくらい野菜が高いけど、この時期はあっちからもこっちからも野菜がごろごろ。とっても楽しい季節。どさっと大袋に10本は入っている人参の束。息子2と人参ジュース作り。

1*皮をむいて小さめに乱切り
2*ボウルにリンゴジュース(できれば100%ストレート果汁)を入れてミキサーで攪拌
3*レモンを加え、子どもが飲みにくかったら砂糖も少し入れる

 


もともと人参ジュースが好きなので、手軽に作れることがわかって嬉しい。

図書館で50人待ちだった昨年芥川賞受賞作品『ハンチバック』(市川沙央著、文芸春秋)が届き、思いがけぬ薄く軽い本だったことに驚きつつ開く。

この1冊に、どれほどの思いが込められているだろう。物質としてはあくまでも軽く、内容も重さを限りなく削ぎながら、密度の濃いものが描かれていた。

私は近いものを持つグレーゾーンの人間なので、とてもヒリヒリしながら読んだ。市川さんのインテリジェンスと勇気とユーモアに敬服。人を選ぶ作品だと思うけれど。

5年前の入院中、スギヤマカナヨさんがお見舞いにくださった本さえ大きくて辛いと感じた。ほとんど開くことができず、横になって腕を上げて読める軽いペーパーの漫画だけを読んでいた。

退院後も、しばらく本が読めずにいた。頭がもうろうとしている上に、やはり紙が、なんて重いんだろうと思って。普通の人にはなんてことのない数冊が体にこたえ、原画展で本を取り扱うことも泣きそうになりながらよたよたとやっていた。デニムのエプロンが、重くてつけられなかった。

今は、その頃よりだいぶ背筋が復活し、ずたずたになったものが繋がってきた感じ。昨年の芥川賞のニュースを詳細に見たわけではないけれど、おそら報道では、幾つも織り込まれたテーマのうち、本のバリアフリーについてが多く取り上げられたろう。一番取り上げやすく「いい話」にしやすい部分だから。

でも、私は取り上げられにくいけれど決してないものとしてはいけない障がいを持つ人の性についてが本質と感じた。そしてふりかけ。「人生にふりかけを送り続ける」主人公釈華を通じて、打ちひしがれていた私の人生にも確かに市川さんから「ふりかけ」が届いた。

小説は重度障がい者の釈華がベッドの上からiPadminiで書く風俗レポから始まるので、ちょっとギョッとする方もいるかもしれない。でももちろん、それはつかみで、本質的なものを描くための序章だ。

もし、この本がわからない、とか、不愉快だと思う方がいるなら、そういう方は健康でいいな、と思う。世の中に物議をかもしだすこうした強い目線の作品に賞が与えられたことに、日本の文学界も捨てたもんじゃないな、と思うし、こんな田舎の片隅にいる人間の孤独に「ふりかけ」を届けられる「小説」というものを、改めてすごいな、と思う。

丁度少し前に別訳を読み終えた『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー著、村上春樹訳、白泉社)と同じような、本でしか触れられない人の奥の部分にそっと触れることができる小説のように感じた。

今日も生きる。人参ジュースを作り、ごはんにふりかけをかけて。