大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

一年の恵み


12月だけミックスフルーツ入りのお菓子とパンを焼きます。
一年を通して採取した庭の果物や地元の果物が
ひとつひとつ瓶に増えてくのを見るのは楽しいものです。

手づくりミックスフルーツはジューシーなので、
シュトーレンの生地がだれ気味になって高さがでず、
見栄えはあまりしませんが、
なんともいえない豊かな味わいが生まれるように思います。


10年くらい前、知らないおじさんの誕生日をなんで祝うんだ
とクリスマスに対してつっぱってた頃、夫のシュトーレン
食べたときのことは今でも覚えています。

当時田園調布の外れの古い商店街の一角にあった静かな佇まいの
「三月の羊」には、手づくりのお菓子の家が飾ってあり、
店内に一歩はいると厳かな、けれど優しいクリスマスの音楽が流れていました。

当時、今ほどシュトーレンは一般的ではなく、特別その世界に知識もなかった私は、
たぶんシュトーレンを食べることさえ初めてだったと思います。
クリスマスのお土産に一切れだけもらって、
家に帰ってそっと食べてみると…

静かな暗闇にぽーぽーっとクリスマスツリーの灯りが灯るみたいに、
色とりどりの味が口の中にひろがってくるのです。
まるでマッチ売りの少女の幻影のように。

それは、今までに知らないクリスマスでした。
こんなクリスマスがあるんだ。
私が思っていた「クリスマス」と随分違うな。
こういうクリスマスなら受け入れられるかもしれない。

そう。日本の、楽しさばかりをうっすらすくいとったクリスマスとは
明らかに違いました。
それは今にして思うと、彼がお菓子の生まれた背景をしっかり見つめ、
原点を大切にしているから味わえた「文化」だったのだろうと思います。

貧しく慎ましい生活をしてきた人々が、一年のこの時期にだけに
味わうぜいたくとしてのミックスフルーツ。
今こういう場所に住んで、12月にミックスフルーツが入ったお菓子を
いただくことの意義を、前よりもっと感じられるようになりました。

そしてあの初めて食べたシュトーレンから、それが毎年どう変化して
ゆくのかをこっそり楽しみにしています。