大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

夏に読んだ本・つづき

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坂本直行さんの『開墾の記』について、読後間もなかったのと夜中に書いていたために、大切なことを書きそびれた気がします。

苦労話大会ではなく、それを記すことによって伝えたいこと。全部読み終えた後の爽やかさや静かな感動は、ただの無駄な苦労では味わえないでしょう。無計画なわけではなく、当時の開墾の状況を少しでも伝えたい・改善したいという気持ち、志を持って農業をすることで、苦労の絶えない農業に安定をもたらすことができるのではという考察と実験の連続でした。

普通の人なら、苦労の最中にそれをあからさまに書くことはできません。客観性を欠けばただの愚痴になり、書くには少しだけゆとりが必要だからです。私も移住について後から来る人や遠くの方へお知らせする為に発見したことをできるだけ書くようにしてきましたが、本当に辛い最中にいる時には、どうしても書けないこともありました。書いたらみじめな気持ちに引きずり込まれてしまうような気がしたから。ですから、坂本さんが苦労を苦労と思わず、全て実験と実践と捉えていたことがよくわかります。もちろん若さもあったでしょう。

それからまた、そうした暮らしの中で、植物がどれだけの励ましをくれるかも実感します。農業を生業にする場合はほんのわずかな気候の変化に敏感でなければなりませんから、もとよりセンサーは細やかな植物の変化を捉えるでしょう。ただ、それを「美しい」と思うかどうかは感性で、こればかりは農民だからというわけにはいきません。自然の中にあるものを美しいと感じる心、これがあればこそ、いわゆる不便と言われる場所にも住めるのでしょう。

農業をしていれば、どんなに辛く実りが少なくてもまた春が来る。闘志を燃やすことができる。そのこともまた、心に染みました。今の日本は「また春が巡ってくる」という視点が実感しにくい社会ですが、辛い今が通過点であるという視座、次の春にはこれをやろうという見通しを持てるという自然のサイクルはなんとすばらしいことでしょう。

数えきれないほどの生命が生まれたり死んだりを繰り返すただ中に身を置いていると、朽ちたりしぼんだりすることもまた自然の一部で、いつまでも拡大してゆくとか収穫し続けるということが幻想だと気づくことができます。収縮を繰り返し、めぐりながら変化してゆく、そちらが当たり前なのですよね。とりとめもないし書くと平凡なことですが、補足でした。


 

 

夏に読んだ本

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六花亭の花の包み紙の絵を描いている坂本直行さんの十勝開拓時代の記『開墾の記』(初版は昭和17年)を完読しました。現在復刻版も絶版になっているところ、近所のYくんが貸してくれました。

右は東京時代に古本市で買ったもう少しライトなエゾの植物紹介書。こちらは喫茶ねこひでお読みいただけます。気楽な感じで開いていたこの本も、『開墾の記』での苦労話を読んだ後では違って見えるかも。

以前から坂本さんのイラストのファンで、西荻の店に右の本を置いていたら帯広出身の方から「北海道出身なんですか?」と声を掛けられたこともあります。でも、浅いファンなのでいい絵だな、と眺めているだけでした。

『開墾の記』は昭和11年に十勝の原野に入植してから5年間の様子がつぶさに語られています。実際に開拓をするような人がこのように生活の様子を事細かに記録することはほとんどなかったであろう中で、大変貴重な記録です。最後にはロウソクと石油がなく、もはや書くことができない、と記してあることからもどれほどの暮らしか偲ばれるでしょうか。

語り口は時代もあってやや硬め、難しい漢字が入っていたり、決してとっつき易いものではありません。持ち主のYくんさえ、全部は読んでないと言っていました。私が読み通せたのは、移住してから5年の開墾に近い体験があったからだと思います。Yくんにはまだ「憧れ」と映る壮絶な暮らしの鱗片を、私はリアルに感じることができたのです。

読み始めてすぐに、私こういう人を知ってる!奥さんはさぞかしご苦労されたことだろうなと思いました^^信念を持って、自分のやり方で荒くれた土地を切り開いてゆこうとするひとりの人、手探りの農業・手探りの酪農・炭焼き。布団に雪が降り積もるほどの暮らしを私は体験しなかったけれど、それが5だとしたら2くらいの経験はしましたから。インクが凍るほどではなかったけれど、供えた花が凍っていつまでも開かないとか、寒くて寝るしかないという体験を知っています。

飼った馬が流産したり、なけなしの牛が綱に絡まって死んだり、天候に左右されて不作が続き、すべてが後手後手になってしまったり、雪のひどい年に厩が埋まって掘り出しに行くと雪が積もり過ぎて馬が天井まで持ち上がり、天井に敷いていたそば殻を食べてしまった為に天井に穴が開いても直す材料がなかったり、とにかくひっちゃかめっちゃかなのですが、そのような中でも志を失うことなく、希望を失うことなく、自然の風景に心打たれ、癒されている坂本さん。そのような中から生まれた絵だからあれほどの力強さと親しみを持っていたのです。

奥さんの初産には吹雪に坂本さんが不在で、寝床に一尺も雪の吹き溜まりができたところにストーブを焚いたら天井の雪が溶けてボタボタ落ちてきたとか、その時生まれた長男が大きくなって高熱を出し家族4人必死で汽車に乗って町医者へかかり、治療を終えてすぐ引き返そうとすると雪で汽車が何日も止まって今度は次男が肺炎とか、汽車の中でおしめを洗濯するとか、「ちょっと!」と思わず突っ込みたくなるほど、本当に奥さんが大変だったろうなぁ!!と他人ごとではなく偲ばれるのですが、今ここに住んでいる私には家族の息吹が大変身近に感じられ、最後まで読み通すことができました。

壮絶と言っても悲惨さはなく、あっけらかんとしたどこかのんきな語り口で、とにかく十勝の冬や夏の霧など自然の厳しさと闘っている様子や当時の農民や町の様子などがわかり、興味深かったです。

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こちらは平塚武二さんの『馬ぬすびと』『絵本玉虫厨子の物語』。坂本さんと何か通じる気概を感じると思っていたら、奇しくも同世代でした。(平塚さん1904年生まれ、坂本さん1906年生まれ)

3月に夢中で読んだ佐藤さとるさんの自伝的小説『コロボックルに出会うまで』(偕成社)で、若きサットル青年が横浜の平塚さんのもとをおそるおそる訪ね師事するエピソードが出てきて、心惹かれる横顔から無性に読みたくなった平塚作品です。硬派ながら臨場感にあふれ、時代を超えて人間というものに迫る会心作。地味めなので手に取りがたいですが、少しくだいて読むと子どもも夢中になりました。こちらもいずれ喫茶に並べます(馬ぬすびとはYくんへお礼に貸す予定)。平塚先生かっこいいですよ。


『開墾の記 復刻版』坂本直行著、北海道新聞(1992) 
『わたしの草と木の絵本』坂本直行著、茗渓堂 (1976)
『馬ぬすびと』平塚武二作、太田大八画、福音館書店(1968)
『絵本玉虫厨子の物語』平塚武二作、太田大八画、童心社(1980)

 

 

 

 

 

 

お知らせ3つ

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*お待たせしました!オーガニックで美味しく安心な商品を取り揃えているアリサンから、りんご酢・オリーブオイルなどが到着しました。おススメは「ビーガンレバーペースト」です。味はレバーそっくりなのですが、野菜と香辛料で作られており、クラッカーなどに塗っておつまみやおやつにぴったり☆

 

「北海道じゃらん」9月号(8月20日発売)に豆乳野菜キッシュを掲載していただきました。七飯エリアコースにて。キッシュは現在金・土・日曜にご用意しています。


9月1日(日)は展示替えの為臨時休業させていただきます。
 どうぞよろしくおねがいします!


   

 

南茅部・大船遺跡へのショートトリップ

大沼から車で10分少々北へ走ると、鹿部という海辺の町へ出ます。
間欠泉のある温泉の町鹿部には温水プールがあるので、時々子どもと出かけます。今回更に足を延ばして海岸沿いを走り、南茅部大船遺跡へゆきました。

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この上で木の実などをすりつぶした大量の石皿!どれほどたくさんの人々がここで生活を重ねたのでしょう。大船遺跡では100棟以上もの竪穴住居跡が見つかっています。同時に100棟建っていたのではなく、時期をずらしてずっと同じ場所に集落があり続けたのです。
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普通の竪穴に比べ大きいことも特徴。安定した食料を得られ豊かな生活が続いた証ではと見られています。周りには栗の木がずらっと囲み、海からも山からも豊富な資源が得られたのでしょう。

f:id:nekohi3:20190820230042j:plain復元された住居(息子撮影)
南茅部の縄文遺跡群で有名なのは国宝にもなっている「中空土偶」で、すぐ近くの縄文文化交流センターで見ることができます。センターには何度も行ったことがあるのですが、大船遺跡は行って一般の人が見られる状態なのかよくわからず、これほど広大な遺跡とも知らずに素通りしていました。いずれ北海道・北東北の縄文遺跡群が世界遺産になったら、ここにもたくさんの人が訪れることでしょう。

古いだけに、残っている物質が少なく世界遺産登録を阻んでいるそうですが、道南に来てこれほど縄文文化が身近に感じられることに毎度驚き、とても刺激を受けています。北東北とのつながりも面白いですし、ぜひ登録を応援したいですね!


ちなみにこの後は、すぐ近くの名湯へ立ち寄り硫黄泉で温まってきました。
秋風が吹く曇天の遺跡日和。渓谷は紅葉の時期もすばらしく、何度でも訪れたい場所のひとつです。

 

 

 

 

 

トースト登場♪

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落ち着いたら始めよう、と心に秘めていたトーストが始まりました。ご用意できない日もあるのですが、あったらラッキー♪と思ってください。
ホイップバターとオレンジママレードを添えて、ホットコーヒーとどうぞ♡
喫茶らしさ満載で気に入っています。

世の女性がときめくような「可愛い」雑貨にあまりときめかず、パンとかの表情に可愛さを見つけてしまう私です。

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コーヒーと並んでる姿が可愛いな。

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ハチミツは本日「盛夏バージョン」が入荷しました。いつにも増して濃い感じです!
盛夏バージョンはハーブガーデンの本領発揮、百花蜜のようなカラフルなお味。少量入荷ですのでお早めにどうぞ☆

 

 

牧場写真家平林美紀 ひつじ写真 喫茶展

9月4日(水)~10月13日(日) 牧場写真家平林美紀さんの写真展が始まります☆

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2006年頃だったでしょうか、西荻窪の店内で写真展をして頂いた頃出版された
『sheep island』は、今も店内に置いておくと最も手に取られる方が多い一冊。

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毛並みが美しく、見入ってしまいそうなもこもこ感がたまらない1枚や、

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「ひつじって飛ぶんですね!」と皆さん必ず驚かれる名場面など、平林さんがニュージーランドで羊飼いをしながら撮りためたすばらしい写真集です。(新風舎、現在絶版)

今も北海道を含む国内外の各地でまきば写真を撮り続けていらっしゃいます。ひつじ・馬・牛・山羊などの偶蹄目が得意分野で、ご自身もとても穏やかな偶蹄目系の方です。

今回は新しい作品から14点のひつじ写真を展示していただくことになりました。本やポスト—カードなども販売。そして、ご本人に会える日も設けます!
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9月28日(土)夕方 三月の羊喫茶室 喫茶ねこひ店内で、平林さんとの座談会を開催
★詳細&受付は8月28日頃をお待ちください。まずは日程調整しておいてくださいね。
 テーブルを囲んで、お茶&お茶菓子付きの少人数(15名くらい)のお茶会のような
 座談会を予定しています。


弱いままで

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書こうとするとうそっぽくて、何も伝わらない気がする。
けれど、少しずつ消えていくものに危うさを感じて、やはり筆を執る。

たくさんの人のお弔い。
どうか、たくさんの争いごとが全て解決しますように。確執は溶けてゆきますように。

せんそうをしている人、仕掛けている人が、ほんとうの意味で幸せにめぐり会えますように。満たされますように。賢くなりますように。

祈り続けるしかできない、大人になっても非力な私だ。
それでも、ぜったいにあきらめない。きぼうをすてない。

40年考えても、解決方法は見つからないけれど、ひとり、幸せにする。ふたり、幸せにする。3人、笑わせる。搾取しない、無理をしない、みえをはらない。


弱さを武器に、すすもう。見失わないで、すすもう。
みんなそのままで、何もいらない。みんなそのままで、一瞬で幸せになれる。