今年のアップルパイはジューシー
大沼での厨房建設から10年経って移住後の生活も落ち着き、七飯産の旬の果物を使って作る季節のタルトは、ほぼこんな風に落ち着きました。
6月苺のタルト、7月ベリーのタルト、8月プルーンタルト、9月リンゴのタルト(あかねなど)、10月アップルパイ(紅玉など)
これらの果物は、ほぼ七飯の果樹園のものを使っていますが、少しずつ自家栽培の比率が増えているのもお楽しみ。
年によって果物のシーズンがずれ込むことも、毎年基本の季節のタルトを作っているからわかったことです。今年は特にいつもと気候が違いました。プルーンの時期が長かったり。
また、出回る時期が同じでも、年により果物の味は異なります。自然にしていたら、レシピは同じでも毎年違う味のアップルパイができる方が当然なのです。
これを良しとみるか悪しとみるかはその人次第。私は、この仕事についた当初芹沢からは「毎度同じ味を提供できるのがプロ」と教わってきましたが、最近そうした均一化に無理と疑問を感じるようになりました。
一定のクオリティを超えたものを提供するという意味では、線引きを設けた方が良いですし、ある程度ぶれない技術は大事です。でも、その時にあるものを生かす方を主に考えると、毎度の均一化が足かせになることがあります。
農作物を遣えば、その年の気候の違い、果樹園の違い、品種の違いなど様々な要因が重なって、同じタイトルだとしても、前のシーズンと同じものを作ることが難しいのです。
三月の羊が手ごろな値段でタルトを提供できるのは、直売所から仕入れていることが大いに関係あります。新鮮で安い直売所は、産地である何よりのありがたみを感じる場所ですが、早く閉まってしまったり、年によって穫れ方にばらつきがあったり、使う側にとっては少し大変な面もあります。
ただ、何よりすばらしいことは、鮮度や味だけでなく、作っている方がどんな方かわかり、ポリシーや工夫、ご苦労などが聞けること。ネットや本にはないこぼれ話を聞くのは本当に楽しいことです。
ここでまた、インボイス制度について。
これまで2回に分けて書いてきましたが、3回目は手短に。
うちがもし、国のおすすめに従って登録を済ませた場合、今仕入れをしているような小さな果樹園とは取引ができなくなるかもしれません。この制度が施行されると、登録したら登録した者同士がつながる、というやり方が一番スムーズなので。
そうなったら、気持ちではいろいろな直売所を利用したくても、仕入れの課税分を計上できない直売所を利用すれば高くつくことになり、それは確実に価格に反映してくるでしょう。価格を抑えるなら、手軽で経理上楽な、大手スーパーの果樹を使うことになりかねません。
ポイントは、このデメリットが金銭的なことだけでななく、事務量を増やし、複雑化し、仕組みに加わらない人たちが阻害される可能性があることです。そしてそのことは、消費者にとってもデメリットの方が多いと私は思います。
例えば消費税を均一にし8%に戻すことで、この制度は必要なくなります。軽減税率以降の事務量の負担は、経理の計算はもちろんのこと、例えば小さな店ではレジでのお客様への声掛けやスタッフ指導やミスをした時の訂正を含め、大変なものです。
もしこれがスムーズに解消されれば、影響があるとされている中小企業やフリーランスだけでなく、実際には多くのささやかな暮らしを営むごく普通の消費者が、この恩恵を受けると思います。金銭面だけでなく、メニューやレジ周りに書かれている小さな文字も減り、やたら確認される事項やレジの待ち時間も減り、消費者のストレスも減ります。
一生懸命国民の家計をご配慮くださっている行政の方々が、多くの確認作業の末ひねり出してくださる助成金の数々よりも、こうしたシンプルなやり方で解決できることもあるのではないでしょうか。結局その方が、末端の公務員も楽になるのではないかと思います。
少し前の新聞に、ある厚生労働省の職員が、入省した際先輩から、「8割の人が喜ぶ政策を」と教えられたと書いてありました。私はたいてい大多数ではなく残り2割に入るタイプなので、その記事には驚き、だから小さいころから生きづらかったのかと納得しましたが、目指すべきは全員にとって良い効果のある政策ではないでしょうか。
そんなのあるわけないって?
あきらめる前に、みんなで考えましょうよ。必ずあるはずですよ。三方良しの方策が。
少なくとも私は、46年の人生で、思い切って提案したことで全員が楽になったという場面を幾つか見てきました。それはすごく多いわけではないのですが、あるにはあるのです。私はそれを見つけ出したいと、いつも願っています。
頭を使うことをやめないで。私たちは必ず考えつけます。
よりシンプルで、みんながちょっとずつ楽になるやり方を!