大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

祈り

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(「ゆりかごのうた」 高濱浩子)

高濱さんのゆりかごのうたシリーズを見ながら、この絵から受ける感じは何かに似ているなぁと思っていた。少しして、丸木俊さんと思い当たった。母と子の、祈りに満ちたその願いの気配が、丸木さんの絵を見ているときの感じ方を思い出させた。懐かしく強くあたたかいような、少し怖いような切実な気持ち。

そんな矢先、6月23日沖縄慰霊の日を前に、NKHの「日曜美術館」で丸木夫妻の特集をしており、夫妻の傍で過ごされた姪のひさ子さんが、まさにリンクするワードをおっしゃっていた。丸木俊さんの絵は全て、「母と子の、当たり前の生活があることを願ってのもの」。冬にいただいた高濱さんのDMで、沖縄のおばあが放った言葉と奇しくも同様の意味合いだった。高濱さんの現在の作品もやはり、命に向き合い、祈りに満ちている。



私は丸木夫妻に、大きな影響を受けた。絵も好きだけど、それ以上に夫婦の在り方を学んだ。西荻窪で、結婚生活と初めての自営業生活が同時に始まり、心も体も全くゆとりがなくて夫婦喧嘩を繰り返していた頃。

店づくりに対して、お互い良いと思うものが器ひとつとっても違い、お互いを受け入れ合えない。妥協できない。自分を曲げるのは何か違うと思って、決定を延ばして更に話し合い、探すうちにようやく見つかるものがあった時、それはより幅のある、確かな普遍性を持っていた。

それは私だけが選んだもの、彼がひとりで選んだものよりも、明らかに多くの人の為に開かれ、それにして良かったと心から思えるものだった。実体験からうっすら気づいていたものの、夫婦の形の手探りはしばらく続いた。

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西荻窪の店内で行った『ロシアのわらべうた』原画展より 絵・丸木俊

結婚から数年経ったある時、同じ中央線沿線の阿佐ヶ谷ラピュタで丸木夫妻のドキュメンタリーが上映された。夫妻の絵も、母のスマさん、姪の大道あやさんの絵も好きで著作も読んだが、生きた映像をまとめたものを見るのはほぼ初めてだった。

その中では、夫妻が水俣病患者を尋ね、絵を描く工程が主に紹介されていたと思うけれど、個性の強いふたりがどうやって長年連れ添い、仕事でもパートナーとして関わったのかとても気になった。人に媚びず、意思の強そうなふたり。どうあってもヒントを見つけてやろうと、私はじっと見ていた。

ひとつの目的に向かってやっていく時、自分というものはなくなるんですよ、というようなことを、その映画の中で俊さんはおっしゃっていたように思う。ふたりが同じ思いでひとつの目的を持って作品を作るとき、自我のない無心で良いものを作ろうという気持ちだけでやるときには、その視点からはどちらの意見が採用されるかはどうでもいいこと。

15年近く経つので記憶に頼ることになるが、その映画の中から私が見つけたヒントはそういうものだった。私は必死でそれを生活に応用した。決め事でふたりの意見が異なる場合はまず自分を手放し、どうしたら「店にとってより良い」か、という視点で考える。もちろんそこには「お客様にとっても良い」という視点も含まれる。夫にも、自我を手放して話すと自然と伝わるものがあり、話し合いは以前より上手くいくようになった。

逆に間違ってると思えば、ただ自分の意見を手放すのではなく、やはり店の為と思ってこうした方が良くなると思うと伝える。どちらかの意見を採用する方が楽ではあるけれど、やはりどちらかが我慢したりただ自分を通すのではなく、このやり方(一方が折れるのではなく、対話から見い出すという方法)で決めた方が結果的には良くなると実感できることが積み重なっていった。

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一緒にいることばかりが正解とは思わないけれど、一緒にいる人たちと気持ちよく生きて行けること、自分を隠したり人に合わせすぎるのではなく、その人がその人のままで心地よく生きられる状態を作ることが、地球上のメンバーが平和に生きることにつながると心から思う。

沖縄戦で犠牲になった方々のご冥福を祈り、改めて今生きている私たちが、どうしたら違う価値観を持っていても戦争をすることなく平和に生きていけるのか、そのヒントを、丸木夫妻はたくさん残してくださった。

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その祈りは未来永劫続くよう、全てを込めて絵に託されている。埼玉の丸木美術館だけでなく、沖縄にも夫妻の「沖縄戦の図」が見られる美術館があると日曜美術館(再放送は6月27日20時)で知った。いつか必ず訪れようと思う。

丸木美術館(埼玉)

佐喜眞美術館(沖縄)