大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

高濱浩子作品展「まなざし」明日まで!

f:id:nekohi3:20210724213437j:plain(「旅する切手」2005年西荻の三月の羊にて)
2002年、図書館勤務の傍ら通っていたセツ(長沢摂先生が始めた美術学校)に置いてあった「装苑」で、私は高濱さんの切手を使ったポストカード形式の作品と出会った。手紙も切手も好きだったので、外国の珍しい切手と美しい線と色との響きあい(サイズも含め)に、大変心をときめかせた。

2004年10月西荻窪のお店をスタートさせた当初、修業を経て自営業も経営してきた芹沢と違い、私は準公務員上がりの、せいぜい家政婦のアルバイトをしたことがあるだけの、ただの喫茶好き女子だったので、西荻のように舌の肥えたお客様がいっぱいいる場所で皆さんの審美眼に叶うようなスキルはひとつも持ってなかったと思う。

あまりにいっぱいいっぱいで、断片的なところどころの記憶を除くと最初の3年のことはほとんど覚えていないのだけど、高濱さんとの出会いは覚えている。鉄瓶に入れた高千穂というお茶を頼んでくださった高濱さんが、ゆっくりお茶の時間を楽しんだ後、自分はこういうのをやっています、と(たぶん青山ブックセンターあたりで始まる)展示のチラシを見せてくれた。

私はすぐに「あ!あの装苑で見たポストカードの作家さんだ!」と気づき、すぐさま「ファンです。今度お店で展示をしていただけませんか」と頼んでいた。高濱さんは「相方に相談してみますね」と持ち帰り、翌年2005年4月に店内でゼンマイカムパニーの展示をしていただけることになった。

f:id:nekohi3:20210724213441j:plain(Gallery第1回目)

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とってもすてきな展示をしてくださり、プロのアーティストとはこういうものかと心の底からワクワクしたことを覚えている。

この後何十かの展示を色々な方にしてもらうのだけど、ゼンマイさんが第1回だったことを、私は次回の展示準備のため過去のファイルを開く今日まで忘れていた。たぶん頭の片隅にいずれ展示をしたいという思いの種はあったと思うが、つまりお願いした時点では設備も前例もなかったのね。でも、おふたりとも快く引き受けてくださり、ただの喫茶店を見事に生かしたすてきな展示に仕上げてくださった。

セツでの勉強や学生時代学芸員の資格を取った下地はあったものの、やっぱりほぼ素人なので、ゼンマイさんに展示していただいた空間のピリッとした空気感を何度も思い出しながら、その後の店内を整えていったことは記憶にきちんと残っている。いつも、あんな風にぴしっと仕上げたいものだと思っていた。

たぶん、「三月の羊」とか「芹沢」とか彼の側が持ち込んだ自分のものではない名前になじむため、何か好きなフィールドを広げないと壊れてしまうと思っていた頃だった。展示に関わっている時は本当に幸せな、呼吸が楽になる時だったように思う。

あの時高濱さんと会話ができた奇跡と、いつもはぼんやりしているのにすぐさまパッと対応できた自分に感謝。記憶力というより、何か嗅覚に近いところで無意識に行動したのだろう。西荻・大沼と、高濱さんに通算5回、最多で展示していただいたことになる。

明日は「まなざし」展最終日。改めて感慨ひとしお。ぜひ空間を含め作品を味わっていただきたい。私に始まりのきっかけをくれた高濱さんの作品は、今もやっぱりすごいエネルギーを持って作用する。絵は「美しい」とか「おしゃれ」とかだけではなく、ものすごい力を持っている。それは一緒に過ごしてみるとよくわかる。

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絵の前に立つとき、自分に何が起こるか。ぽかーんと心と頭と体(自分)を開け放って起こる作用に身を任せるスリルを一度知ると、冒険を知ると、きっとやみつきになるだろう。

マヤ歴では1年と1年の継ぎ目にあたる「時間を外した日」。何かが終わり、何かがまた始まろうとしている。大きく変化するこの世界を、楽しみ慈しみ、乗りこなしてゆきましょう!みんな健康で。