大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

『やっぱり犬がほしい』

『やっぱり犬がほしい』スギヤマカナヨ作、アリス館、2023年

スギヤマカナヨさんの新刊『やっぱり犬がほしい』は、2004年の作品をベースに改訂増ページ、絵を全て新たに描かれた本です。


左から開くと犬との出会い、右から開くと犬との別れと命についての物語となっています。お別れのお話を今は読みたくない、という方は、左開きだけどうぞ。子どもの頃から犬を愛してやまないカナヨさんの実体験を交え、長く温めてこられたものの全てが詰まった愛情深い1冊となり、静かな部屋で大切に読みたい作品です。

右から開くと続きのお話が始まる

 

今回できたてほやほやの状態で、10月24日発売の本をねこひにお届けいただきました。店頭及び通販からお買い求めいただけます。

絵がとにかくすてきです。シンプルで柔らかく、一方で余白がこの本に緊迫感を与えながら、読者が一番大切なものに触れられるよう、過不足ない形でストーリーに寄り添ってゆきます。

カナヨさんが長らく描いてきた実体験を交えた体温のある登場人物や、子どもたちを取り囲み優しく語りかけてくるおもちゃやぬいぐるみたち、ひとつひとつのちょっとした表情やしぐさが、本当にあった時間として軽いタッチの中に存在感を放ち、ひとつ線を越えた仕上がりとなっています。

コロナで会えなくなってしまった人のことを、痛みなしには思い出せないけれど、それでも浮かぶのは、笑顔、笑顔、笑顔。メモリアルビデオには、私の知っているその方の笑顔は1枚もなくて、私の知っている彼は、私の中にしかいないんだなぁとしみじみしてしまった春。

誰もが身近にある、愛する人がいなくなってしまうという痛みを、誰よりもカナヨさんが痛切に感じ、そしてなくしてなお余りあるあふれる愛情を、こういう形で送り出していらっしゃることに、心を揺さぶられます。

犬を飼うということを知る1冊でもあり、この地上で体温のある者同士がひとときを分かち合うという胸にせまるような体験について、静かに語ってくれる1冊です。

 

『やっぱり犬がほしい』アリス館のページ
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