大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

雲が流れる ー 櫻井先生 ー

散歩していると見た事のない蝶が次々に現れ、
目を奪われる。写真にはなかなか撮れないし、
撮ったとしても、この美しさは伝わらないだろう。

毎日いろんな死体が落ちている。
芋虫のような小さいのから、大きいのは雀まで。
あんまりどんどん死んだり生まれたりしているので、
こういう所にいたら、死に慣れてくるんじゃないかと思った。

ところが人間はそういうわけにいかないみたい。
名前があって、感情があって、生殖以外の目的でも
他の人と愛を交わし合う人間ってとっても不思議だ。
面白い動物だなぁ、とつくづく思う。

恩師であり、現代の語り手として世界のストーリーテラー
交流のあった櫻井美紀先生が、先日ご逝去された。
先生は、人が話す「言葉」が持つ力を、深く優しい響きで
私たちに伝え続けてくださった。



囲炉裏端の語りが囲炉裏とともに姿を消しつつある昨今、
ストーリーテリングというと、子どもたちに向けてお話を語る
スタイルが想像しやすいと思うが、先生は「語る」ことの根源を
勇敢に知的に探りつづけ、伝統の語りだけでなく、
スタイルにとらわれない自由な語りが現代に根付くよう尽力されてきた。

語り手になる練習は、まるで魔女訓練みたいでユニークだった。
「幼い時の自分に会いに行って、そこで会った人の声を聞く」とか、
「舞台の上から客席の一番後ろにいる先生に向かって愛する人の名を呼ぶ」とか、
体をほぐす体操とか、言葉に重みや味を感じるトレーニングとか。

私が語り手たちの会から得た大きな収穫は、語ることよりもむしろ、
相手の話を聞く姿勢。大げさに言うと「魂を傾けるような」聞き方と
上品な相づちの打ち方を、先生は言葉なく教えてくださった。
また一緒に学んだ語りの仲間とは、世代は違っても深い信頼関係が
築かれていたことに、改めて気づく。これこそ語りの効用だろう。

NPO法人 語り手たちの会「基礎講座2010年」は9月から半年間
東京にて開催されます。ご興味ある方はぜひ。