大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

大野さんの故郷・函館


ランドセルを作りました。

チケットより小さいランドセル。久しぶりに「工作」をしました。
道立函館美術館の入り口で、どなたでも無料で体験できます。
色は色々選べて、少し難しいです。

展示室では今「そっくりの魔力」という写実画や工芸品を展示しています。
実はこれまで、抽象の方が圧倒的に面白いと思っていて、あまり写実的なものに
興味を持てずにいました。

けれども今回の展示で改めて、「見る」こと、それを再び、見たこと以上の奥行きを含めて
表現することの面白さを体験させてもらいました。
絵は言葉を通さずに脳に何かを話かけてきてくれます。

わからないから楽しめないという方がいますが、わからないままでいいと思います。
それは単に、言葉にした理解ができないというだけのことだから、ちゃんと言葉じゃないところで
お話しているはずです。体が、脳が。

小3の息子はミニランドセル作りで満喫しすぎたのか、絵の方はあまりじっくり見ておらず、
私は駆け足でめぐることになりましたが、それでもとても心を打たれた幾つかの作品がありました。
ひとつは諏訪敦さんが100歳を越えて横たわる大野一雄さんを描いた油絵の写実画です。
(大野さんは103歳で逝去)

諏訪さんの気迫が、全身で大野さんを捉えようという気迫がみなぎっていて、
ひとつの瞬間をもぎり取ったその場面の中に、入る限りの大野さんの存在が盛り込まれていて、
何とも言えない迫力でした。

キャプションで大野一雄さんが函館出身と知ったことも大きな収穫でした。
私は舞踏に詳しくはありませんが、大野さんと言えば、日本の舞踏の草分け的存在。
大野さん、そしてギリヤーク尼崎さんと、函館は舞踏の故郷でもあったのですね。

若い頃自分や世界というものを探り当てたくもがいていた頃に大野さんの存在を知り、
西荻窪で日本最初の自然食品店を営む「ナモ商会」の本屋さんで『大野一雄 稽古の言葉』
(フィルムアート社)を買って今でも大切に持っています。

「伝える」ということについて、体の奥底から、魂からの言葉を届けて下さっているような本です。
わからないのだけど、何か心に迫るものがあって、時々読み返しています。
その大野さんが函館出身ということは、私の中では腑に落ちるものがありました。

去年連続で観た佐藤泰志さん原作の映画も、谷村志穂さんの函館を舞台にした作品からも、
何か共通のものを感じたからです。それは、「洋館の多いロマンティックな街」ではなく、
どちらかというと大変な世界を生き抜く地べたの暮らしの人々の生活を見せてくれるもので、
何もかも剥ぎ取っても残る生と死の間にあるもの。
眼をそむけたくなるほどの現実にしっかり目を向けて真実を掴み出したい、という気持ちに
あふれ、その黒々としたものの中から取り出したものは確かに希望を感じる、
キラキラしたものなのでした。

大野さんは弁天町で生まれたそうです。大野さんの故郷でこの絵を見ることができ、
特別な感慨で美術館を後にしました。