駒ヶ岳雪の朝:夫撮影
東京を愛しく思う気持ちを、無理に消さなくていいって
わかった翌日、函館からも愛情を受け取った。
移住して半年。人から見たらばかみたいな苦悶かもしれないけど、
こちらでの暮らしに馴染み、変化に対応しなきゃとがんばっていたので、
来た道を振りかえることを後ろ向きに感じることがあった。
もっと新しい出会いを作ってそれを埋めなければならないような
気持ちになって焦ったりもした。
でも当たり前のことだけど、19から34歳までという、ある意味
吸収力の強い時期に出会った人や場所だもの、大切な思い出がいっぱいある。
東京の、あの坂の多いうねうねした細い路地や階段、ちまちましたところに
ぎっしり人と植物が生きているところ、大好きだよ。
歩いているだけで不思議な出会いがたくさんあった。
今までおつきあいのあったお客さんからまたご注文いただいたり、
励ましをもらうことはすごく嬉しいし、
遠くなったことで心の距離が縮まった人もいる。
すぐに会えない友だちがいるっていうことが
淋しいことじゃないって、やっと気づけた。
不思議なことに、良さがうまく味わいきれなかった郷里高崎への愛情も、
ここへ来てだんだんに深まってきた。
中途半端な(でもある程度便利な)田舎から大都市へ、そして本物の田舎へと
色んな場所に身を置く事で見えてきた価値があるからかな。★
星空が好きなので夜景には関心がなかったのに、
函館の夜景は何度見ても心を打たれる。
きのうは函館山の山頂で川瀬直美監督の『玄牝』を観て来た。
3日間行われたイルミナシオン映画祭はビビッドな作品ぞろいで
どれに行こうか非常に悩んだ。
『玄牝』は自然出産で有名な愛知の吉村医院を
一年かけて16mmフィルムで撮った作品。
作中ロケット・マツさんが乾いた空気のもと吹いた
哀愁のピアニカが目と耳にはりついている。
日が暮れた箱館山をロープウェイに乗って、夜景を眺めながら
映画の前後を過ごすぜいたくな時間。花火まで上がった(波止場の点灯式)。
閉会式ではプロデューサーあがた森魚さんが歌を歌ってくれた。
高崎にも、県外へ誇れる手作りから始まった市民の映画祭があって、
姉と一緒にボランティアスタッフをしていたことがある。
函館の映画祭は、まだ規模は小さいけれど、アクティブでクリエイティブな印象。
21時を過ぎると1本しかない23時の終電に乗って、
静かな赤井川へ帰った。
オリオンが南の中央にあり、星雲が3つ見えた。