大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

3年

何も不足はないとすんなり思えるようなさわやかな日。
緑の中を心地よく風が吹き抜ける。川の音が耳に涼しい。
移住して丸3年経った。

体がだいぶ慣れてきた。
仲良しの木が増えた。
仲良しの友だちができた。
常連のお客さんができた。
家ができた。
子どもが生まれた。

なんて色々なことがあった3年だろう。




以下、3年記念でちょっと振り返ります。
長くなるので気が向いた方だけ読んでください。




東京に暮らしていると「もうやだ」って思うことは
誰にでもあると思う。
例えば年々ひどくなる地獄のような夏とか、
酸素の少ない満員電車とか。

東京が好きで住んでいたとはいえ、
私にもそんなときはあった。
でも、移住を決意した後、東京がいやで出て行くのはやだな、と思った。
やるべきことをやって、東京を楽しみ尽くして出て行こうと、
北海道への移住を決心したとき、同時に決心した。

だから出て行くときには、西荻でとても居心地の良い環境ができていた。
東京の人は冷たい、と人は言う。
でも、私にとっては、東京での人との関わりは、
あたたかいものの方が多かった。

妊娠中席を譲ってくれる人は、仕事のできそうなキャリアウーマンが多かった。
エレベーターの少ない駅でベビーカーをさっと運んでくれるサラリーマンは、
家で良いお父さんなんだろうな。
散歩中話しかけてくる知らないおばあちゃんは、昔の子育てを懐かしみながら
アドバイスしてくれた。
話かけていいかな、という控えめな態度のおじさんたちは、警戒されないよう
注意している様子がいじらしかった。


仕事帰りには、ベビーカーを押して家まで歩く途中、
「おかえりなさーい」と声を掛け合う人たちがたくさんいたし、
家で昼寝をしていると、「ひーさこさーん」と
ベランダ越しに知人が声をかけてきて、なんだか田舎みたいだなぁと思ったり、
鍵を忘れて夫が帰るまでとなりの棟のお姉さんのところにいさせてもらったり。

当時からだいぶ暑くなってきていた夏だけど、住んでいたマンションは
建物同士の距離が広く、近くに大きな木のある公園があったので
一年を通してエアコンなしで暮らせた。

電気代は2000円以下。
(大沼の古い一軒家で10アンペアの生活をしていた時の
1000円程度の電気代よりはさすがに高かったけど)
夏、扇風機さえいらないことがあった。
冬もホットカーペット1枚ですんでいた。
設計で、住まいはいくらでもエコになると知った。

時々子どもの為に田舎へ行きたいという人がいるけれど、
私たちは明らかに、自分の為に行きたかった。
東京がいやだとか、困っていたからというよりも、
もっと自由に楽しく生きるために選択した。


自給自足的な田舎暮らしを好む夫とも、少しスタンスが違った。
すばらしい信念とかも、特にない。
ただ、体と心が楽になりたいと思った。
満ち足りるまで東京で遊んだから、別の世界を見たかった。
東京のいいところは今でも100個くらいすぐ言える。
でも、大沼にきてよかったことも、どんどん確実に言えるようになってきた。

例えば美術が好きなので、その延長線上で大沼の美を日々楽しんでいる。
東京でわくわくするような展覧会にだんだん飽きてきて、
もっと美しいものを見たいと思った時、
やはりその美を抱えているのは自然だった。
(人的な面白さとはまた別だけれど)
ドングリの美しさだけでまいってしまうもの。

今、緑のトンネルを抜けて毎日子どもの送迎をする。
目に、緑のストックがたくさんできてきた。
トマト好きのイタリア人が赤の種類をたくさん知るように。
白樺のきらきらした葉色、ブナのライムグリーン、針葉樹の黒っぽい緑、
ハリエンジュの出はじめの赤みがかった灰緑。
ただの「緑」が重奏曲のように豊かにふくらみはじめた。

大変なことはあるけれど、目や、耳はあきらかに満足している。
カーテンのない二階の窓から星を見ながら眠り、
鳥の声で目が覚める。目覚ましは使わなくなった。
真っ暗になる夜を通過して、私は生まれ変わる。


移住して3年経った。
その3年間を振り返ることは、(やってみようとしてわかったけど)
思っていた以上にハードでまだできなかった。
でも、動機を振り返ったとき、確かにそれは実現している。
あるいは、実現の途上にある。

なんかすごいな、と思った。
そして途上なんだ、と思うとほっとした。
痛みが、「されている」痛みではなく、もっと積極的な
明るい痛みに変わっていく。

私は、3年間をなんとか乗り切った。
たくさんの人に助けてもらいながら、自分の全力で。





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心から感謝を申し上げます。
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