大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

水と本 okinawa2


沖縄へ行ったら、必ず訪れたいと思っていた場所がありました。
牧志公設市場の前にある3畳ばかりの古本屋「ウララ」です。

私たちが大沼に落ち着くことを決め、棟上げをした2011年11月11日、
沖縄に移住した宇田さんは、ジュンク堂書店を辞めてひとりで小さな古本屋を
始めました。

人がその人らしい道を覚悟を決めて選び、やることをやったときすーっと波に乗る
ように、彼女の堅実ながら勇気あるアクションは、すぐに周囲の注目を集め、
あちこちのメディアで取り上げられました。

昨年は沖縄の出版社ボーダーインクからエッセイ『那覇の市場で古本屋』を出版し、
池田晶子記念Nobody賞を受賞。今年はちくまプリマー新書から『本屋になりたい』を
出版し、挿絵はなんと高野文子さんが手掛けています。
この本は、先日北海道新聞でも取り上げられたそうです。

開店4年にしてこのような華やかな活躍ぶりとなる裏には、しっかりした考えと
これまでの蓄積があるからで、お付き合いが10年以上になる私には、
彼女のこれまでの道のりと、自分の合う場所をぴたりと探り当て、見事に開花した
様子がまぶしく感慨深く感じられました。


お店のキーにもなっている山之口獏(沖縄の詩人)の本は、
私にとっても大切な位置にあり、ねこひ日記でも度々ご紹介しています。
高田渡さんが多彩なゲストを迎えて獏を歌った左のCDは以前沖縄へ行った時に
買った宝物で、もしもCDを1枚だけ残すならこれが残るのではないかというくらいの
お気に入りです。(ウララでも売っています)

宇田さんとは、20代にやっていた「ほんだな」という書評サイトを通じて
知り合い、『山之口獏詩集』もそこで出会った本です。
東日本大震災の後、原発に対して燃え上がる情熱で活動していた周りの友人たちに
加わることができず、私は静かにこの本を読み返していました。

怒りに任せて行動しても対立が生まれるばかりで、それよりも
冷静な目で、自分がいるところを地球儀に乗せて回して笑ってしまうような心で
世界を見た方が良いように思ったのです。

まだまだ分かりきらない詩があり、高田さんの歌を反芻しながら
一生かかってひとつでも分かるようになればもうけものだ、と思っていました。
でもここ数年で力みはとれました。「分かるように」なんて思う必要もなく、
本当につらい時や苦しいとき、獏さんの詩は隣をみるとふっといてくれる友達のように
そこにいるのです。


(ウララから見た景色)
店番の隣に椅子を出してもらい、コーヒーを啜って通りをゆく人々を眺めながら、
高円寺でも中野でもなく、沖縄で宇田さんと並んでぽつんと座っていることが
とても不思議でした。コーヒーという不思議な飲み物の魔法にかけられて
いつか荻窪の喫茶店にいた私たちと時空を超えてつながっているようでした。

市場の古本屋ウララ
  ブログ→ 
  沖縄市牧志3−3−1
  12−19時 日・火定休
  沖縄県産本に力を入れて収集。