大沼ねこひ日記

三月の羊の製造以外(企画、営業、広報、売り子 +マイフィールドの喫茶、絵本、gallery)を担当。高崎→東京→大沼へ

走り出せ!

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春です。新成人の皆さん、成人おめでとうございます。
今年は特別な区切り目で、17~20歳の方は戸惑っている方もいるでしょうか。(4月生まれの高校3年生はいきなり成人ですものね…)

古い大人たちの勝手な期待なんてはねのけて、自由にのびのびと新しい大人になってください✨

私が20歳になった時、おばちゃんたちが「一番いい時ねぇ」と言ってくるのを「はぁ?」と思って聞いていましたが、今成人を迎える若者に会うと、確かにそう言いそうになってる自分がいて笑います。

でもそれは、当時が一番幸せだったからというのではなく、背負うものがあまりなくて軽かった「自由さ」に対しての「いいなぁ」です。当時私が「はぁ?」と思ったのは、その時大して素晴らしく青春を謳歌してるわけでもない自分に対して、この程度で人生の最高潮とか言わないでくれ、という気持ちで、大人たちが青年独特の苦しい時のあった昔のことを忘れちゃっていいとこだけ思い出してるのかな、なんて思ったのですが。

幸せ度で言ったら、当時の自分が思った通り、断然今の方が幸せ!これこそ年齢のなせる業ではないでしょうか。フランス人の女性は65歳が人生で一番幸福な時と言われるそうですが、私もこのままいったらそうなれそうな気がします。だって20代の頃よりも、確実に幸せを感じる力が強まっていますから。

当時何かで見かけた「40歳になったら自分の顔に責任を持て」という誰ぞやの言葉が心に宿り、一応そっちへ向かって歩いてきました。20歳の時大嫌いだった自分の顔が、おかげで今は好きになっています。顔が変わったのではなく、顔つきが。

ここから先は少しテクが必要そうですが、ヨーロッパの女性のように、年を重ねることで磨かれる美しさを見ることのできる眼差しを持っていたいと思います。

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(『ニルスのふしぎな旅』ラーゲルレーヴ作、菱木晃子訳、福音館書店
息子2と2年前に読み始めたニルスの冒険が、とうとう終わりに近づいてきました。
始まりではやんちゃで大人の言うことなど何も聞かず、動物たちにいたずらばかりしていたニルスが、ガチョウのモルテンに乗って旅を続ける間に大きく変容していゆく物語。北欧の風土が盛り込まれた名作です。

アメリカ風の単純明快なサクセスストーリーとは違い、精神が成長を遂げる部分に重点が置かれ、時には土地の神話やファンタジーも挟みつつ、南北に長いスウェーデンの地方ごとに特色のある様子や、1900年初頭の人々の暮らしを詳細に描き、少し歯ごたえのある物語ですが、味わい深く他にない面白さがあります。

寂れた農村で一人ベッドに横たわる老婆の傍、都会で暮らす子どもたちから「母さんもこちらで一緒に住もう」と書かれた手紙が置かれた静かな部屋で、いつも餌やりに来るおばあさんが来ないから見てきてほしいという家畜の申し出を受けて出向き、看取りをするまでに成長したニルスの様子や、疫病の蔓延する街で現実に真っ直ぐ向き合う幼い姉弟のシビアな場面では途中声が詰まり、息子2が続きを読み上げてくれたこともありました。

スウェーデンの広大な自然は湿地と森が多く、植生も住んでいる動物たちも北海道に似たところがあるので身近に感じる部分もありますが、息子が続きは?と言ってくれなかったら、ひとりで読み通すことは難しかったかもしれません。

舞台は100年前の遠い場所でありながら、厳しい生活の中で何を大切にしてゆくことが美しい人生なのか、時代を超えて語り掛けてくれるおばあちゃんのような作品で、今のような時代にこそ、もっと多くの人の手に取られたらと思います。

上下巻に分かれずっしりとしたこの本は、何時でも誰にでもすっと入っていくものではないかもしれませんが、移り変わりの多い現代で、どっしりとした体の根になってゆくのではないでしょうか。

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物語もクライマックスに差し掛かる頃、ワタリガラスのバタキがニルスに言ったセリフ、「どんな困難にぶつかっても、よく考えれば、かならずのりきれる方法はある。おまえがどうやりぬくか、それを見るのを、おれは楽しみにしているのだ」私も心からそう思い、新成人のみなさんへこの言葉を贈ります。おめでとう!

言い尽くされた言葉かもしれませんが、この作品が1906年に発表されたことを考えると、ことさら響くものがありませんか。