長雨が上がって、夏のにおいがする。
夏至をはさんで前と後ろ。
言葉にならない何かが変わってゆく。
「哲学しに行くんでしょ。」
西荻窪の友だちFALLの三品さんが、引っ越す前にやにやしながら、
そう言ってくれたことがある。
三品さんはいつも、誰とも違う切り口で、私に新しい見方を
見せてくれる。まるで手品みたいに。丸い物を切り分けたら
星形になったみたいな斬新さで。
言われたときはぽかんとしたけれど、まもなくじわじわと
言葉が染みて来た。
手放した色々なもの。関係。新しい価値観。生活様式。
同じ日本国内で、日本語も通じるはずなのに、外国みたいに違う。
それも見えにくい微妙な差異で、よけいに戸惑う。
家族の密度が濃い。
気象が激しい。(関東はなんて穏やかなんだろう)
自然が荒々しい。その分美しい。
月が近い。煽られる。
人との間に物理的な距離があるためか、独自ルールの人が多い。
お金よりも物物交換という経済システム。
ひとり旅が好きで北海道によく来ていたけれど、
旅した時とは全然違った。
戸惑って、何でここへ来たのだっけ、と思うようなとき、
三品さんの言葉がすっと足元を照らしてくれた。
新しいものを体感したくてここへ来た。自由になるために。
頭でわかれるひとは、こんなタイヘンなことやらないんだね。
体張って、ほとんど命がけでやった私はあほなのかしら。
わかっていたつもりの色々を洗い出すようにじゃぶじゃぶと
端から洗濯し続けた4年間。
今、ようやくお守りみたいに握りしめていた言葉を手放して、
新しい季節へ飛び込んで行く。